1948年長野県生まれ。2月23日(フジサンの日)生まれのため、富士山にはこだわりがある。
1978年、30歳で設立した(株)グリーン・ボックス 賃貸管理会社に、35歳で船井総合研究所の経営コンサルを受け、船井幸雄氏と運命的な出逢いをする。
数年間船井幸雄の指導を受け、1991年「(株)船井総合研究所・東京海上・日本生命・三菱銀行」等から出資を受け「(株)船井財産コンサルタンツ」を資本金一億円で設立、代表取締役社長に就任。2004年、創業14年での上場となる。2008年60歳で退任。
*慶應義塾大学教授を経て、千葉商科大学 学長。
小泉政権では内閣府特命顧問(2001年-2006年)として構造改革を推進。
——船井幸雄会長と出逢う。
「はじめて船井会長と面会をしたとき、私はひとつだけ、『どうしても聞いてみたいこと』がありました。その答えを聞いて、私の人生観は大きく、変わります」
——何を聞き、どんな答えを得たのでしょう?
「私よりも優秀な経営者の会社が継続できない。反対に、私の会社が “自然と”伸びていく。その理由を知りたかったんです。すると船井会長は、こう答えました。『平林さん、努力は当たり前で、最後は、“運”をどう味方につけるかですよ』って」
——“運”ですか?
「そう、“運”です。2012年は、約15万社が創業したといわれています。けれど、統計的に見ると、5年後には約15%(2万2500社)、10年後には、約6%(約9000社)しか残りません。残った6%の会社と、消えてしまった94%会社の違いは、何だと思いますか? それは『運をどう味方につけるか』です。どの経営者だって、努力をしています。つまり、努力は当たり前で、『差をつけるのは“運”だ』と気がついたら船井幸雄の“追っかけ”になっていました(笑)。“運”を勉強してみたいと思ったんです」
——その後、平林さんは、「株式会社船井財産コンサルタンツ」や「株式会社船井メディア」の設立、高級料理店「うかい亭」(株式会社うかい)の経営参加、「河口湖オルゴール美術館」の代表就任と、略歴を拝見すると、大きな挫折がないようにも思えるのですが、その理由はやはり、“運が良かった”からでしょうか。
「そうとも言えるでしょうね。世の中はものすごく単純にできていて、『必要なものは残り、必要でないものは消えて行く』のが原理原則です。私は『世の中に必要とされる事業とは、何なのか』を常に考えていましたから、結果的に“運”を引き寄せることができたのかもしれません」
——“運”を良くする条件をひとつ教えていただけますか?
「松下幸之助氏は、面接の際、必ずこう聞いたそうです。『あなたは運がいいほうですか? 悪いほうですか?』。そして、『自分は“運”が悪い』と思っている人は採用しませんでした。運を良くしたいなら、根拠なく、思い込みでも、『自分は絶対に“運”がいいんだ』と信じて疑わないことですね」
「いま、上場企業はどれくらいあると思いますか? 約3500社です。その中で、創業経営者の数は約1000人くらいでしょうか。日本には約400万社の会社があり、上場は、針の穴に糸を通すよりも難しい。では、どんな人が糸を通しているのか。上場企業の社長(創業経営者)には、『あきらめない人』『人の言うことを聞かない人』が多いんですよ。ようするに、迷いがない。『絶対にうまくいく』と根拠なく信じている。一方で、堅実に考える人が成功している気がします」
——「うまくいく」と信じていても、勢いだけではうまくいかない、ということですか?
「何かをはじめようと思ったとき、迷ったら、絶対にやらない。考えて、考えて、考えた結果、『100%自信がある』と思えたものしか手を出してはいけないんです。
——会社の成長に必要な条件は、何だと思いますか?
「社員の人間性が向上しなければ、長期的な繁栄は期待できません。会社の成長は、社長の力プラス、社員の力の総和です。私が、どの会社においても『お客様と“社員の幸せ”を追求する』という経営理念を掲げていたのは、会社の成長は、社員の人間的な成長とイコールだからです」
——ということは、社員の人間的成長を高めるのが社長の役割といえそうです。
「会社は『社長の器』以上に大きくなりません。小さなコップには少しの水しか入りませんから、たくさんの水を貯めたければ、『社長の器』を大きくする必要がある。社員にも、同じことがいえます。社員にも器があって、社員の器を大きくするのは、社長の役割です。ですから社長は、社員の器を大きくするしくみをつくる必要があるでしょう。『社員の幸せ』なくして、会社の成長はありえないと思います」
——具体的には、どのようなしくみが必要でしょうか。
「例えば1つのプロジェクトを任せるとします。3回やって3回とも失敗したら、その人は自信を失うし、社内的にも厳しい立場に追い込まれてしまいます。ですから、3回のうち、『1回は必ず成功する』ようなしくみをつくって、少しずつ自信を持たせることが必要でしょう。あとは、『気持ちの良いこと』を習慣化するしくみもあったほうがいいですね」
——「気持ちの良いこと」とは?
「来客があったときに、『いらっしゃいませ!』と元気に挨拶ができる会社とできない会社では、どちらが『気持ちが良い』ですか? トイレがきれいなお店と汚いお店では、どちらが『気持ちが良い』ですか? さきほども申し上げたように、世の中は単純で、『お客様から必要とされる会社』『お客様から喜ばれる会社』が伸びていくようにできています。だとすれば、「気持ちの良いこと」ができる会社のほうが、お客様に喜ばれますよね」
——「日本ビジネス協会(JBC俱楽部)」(※経営者の異業種交流会。登録数は250社で、会員になるのは半年待ち。)や「日本賃貸管理業協会」「島田塾」「富士山を世界遺産にする国民会議」(認定NPO)の発案・設立もされていますね。
「お金になるわけでも、実利的なメリットが得られるわけでもありませんが、楽しいじゃないですか。僕は、『自分が知り合った人が幸せになるお手伝いをすれば、自分も幸せになる』と考えています。自分が動くことで、知り合った人たちが幸せになる。そして、知り合った人たちが幸せになるほど、僕の“運”も良くなるわけです」
——日経新聞の「交遊抄」に2回掲載されていますね。
「僕も知らなかったのですが、同じ人が2回載ることは珍しいみたいですね」
——澤田秀雄会長(株式会社エイチ・アイ・エス)、渡邉美樹会長(ワタミ株式会社)小田全宏会長(アクティブ・ブレイン協会/富士山を世界遺産にする国民会議運営委員会委員長)など、平林さんのまわりには、たくさんの実業家が集まっていますね。
「業種業界を問わず、いろいろな人とつき合っています。僕は、『集まる』のが好きなんですよ(笑)。『JBCビジネスラウンジ』をつくったのも、集まった人たちの交流を深めたかったからですし」
——「気になる人」がいれば、すぐに会いに行くそうですね。
「それはもう、すぐ、ですね(笑)。先日、日経新聞に『震災バイオリン 希望の音』という記事が掲載されました。津波にさらわれた流木でバイオリンを製作したのは、バイオリンドクターの中澤宗幸さん。中澤さんは、千人にリレーで演奏してもらうプロジェクト『千の音色でつなぐ絆』を通じて、復興支援をしています。この記事を読んで、僕はすぐに会いに行ったんです。6月30日、皇太子様が中澤さんのビオラを演奏してニュースになりましたね」
——なにか目的があってアポイントを取ったのですか?
「僕は好奇心が強いから会いに行っただけ。メリットがあるとかないとか、そういうことではないんです。ただただ『すごい人だ』と感動したからですね」
——どうしたら、たくさんの人を集めることができるのでしょう?
どうしたら、共感を得ることができるのでしょう?
最後に、「人を巻き込むコツ」を教えてください。
「繰り返しますが、『気持ちの良いこと』を続けることだと思います。以前、船井会長に『ホテルに宿泊したら、泊まったことがわからないくらいきれいにしてから出ていきなさい』と言われたことがあります。客室の清掃に入った人が『この部屋は使ってないの?』と間違うくらい、きれいに整える。オフィスやゴルフ場の洗面所が濡れていたら、しぶきを拭う。そうすると、次の人に『気持ち良いプレゼント』ができるじゃないですか。『気持ちの悪いこと』を自分のところで止めるように心がけていると、いつの間にか『ハッピーな人』が集まってきます。自分が『楽しい』と思うこと、自分が『気持ちが良い』と思えることをしていると、経済が循環して、みんなが幸せになる。そのことが理解できると、人生が変わってくると思いますよ」
——最後に、これから平林さんが力を入れて活動されていくものがあれば教えてください。
「10年前に『富士山を世界遺産にする国民会議』をスタートさせ、この度、めでたく世界文化遺産に登録されました。2016年までにユネスコに保全計画を提出することになっているので、今はそれに力を入れています」